個人情報漏洩で社員に罰則・損害賠償は?誤送信と持ち出しの違いと、先に問われる会社の監督
部下が顧客名簿を誤送信した。上司にまず聞かれるのは「本人はどうなるの?」です。答えはうっかりか、わざとかで分かれます。そしてどちらの場合も、会社が社員を監督していたかを問われます。
Q1誤送信した本人は、罰金や逮捕になるんですか?
うっかりの誤送信や置き忘れは、個人情報保護法が社員本人を罰する条文(第179条)の対象ではないとされています。この条文が罰するのは、業務で扱った個人情報のデータベースを「自己若しくは第三者の不正な利益を図る目的で」渡したり、盗用したりした場合です。
ただし、罰の対象でないからといって、損害賠償や懲戒まで無関係とは限りません。Q3とQ4で答えます。
Q2わざと名簿を持ち出して渡したら、本人はどうなる?
お金などの得のために名簿を外に渡せば、社員本人は1年以下の拘禁刑または50万円以下の罰金になりえます。拘禁刑は、刑務所などに入れられる刑のことです。役員や、すでに辞めた元社員も対象に入ります。
この場合、会社にも1億円以下の罰金が科されることがあります。社員が会社の仕事に関して違反したとき、本人と一緒に会社も罰する決まりで、両罰規定といいます。
| うっかり誤送信・置き忘れ | わざと得のために外へ渡す | |
|---|---|---|
| 本人の 刑事罰 | 対象外 | ありうる |
| 本人の 賠償・懲戒 | ありうる | ありうる |
| 会社 | 監督を問われる | 監督を問われる +罰金もありうる |
Q3本人が損害賠償を払わされることは?
社員本人が、被害にあった人から賠償を求められることはありえます。民法では、わざとやミスで他人の権利を傷つけた人は、賠償する責任を負います。
ただ、社員が仕事の中で他人に損害を与えた場合は、会社が賠償するのが原則です。民法の「使用者責任」という決まりです。会社が社員の選び方と監督に「相当の注意をしたとき」は別、という例外も条文にあります。
Q4懲戒解雇にできますか?
懲戒解雇にできるかどうかは、就業規則に何が書いてあるかと、処分の重さで決まります。懲戒は、会社が社員のルール違反に与える罰で、減給や懲戒解雇などがあります。労働基準法は、懲戒の決まりを作るなら、その種類と程度を就業規則に書くよう求めています。
書いてあっても、重すぎる処分は無効になることがあります。労働契約法は、合理的な理由がなく、世間の常識から見て重すぎる懲戒を無効としています。うっかりの1回で懲戒解雇にしてよいかは、弁護士に相談してから決めてください。
Q5会社は何を問われるんですか?
会社が問われるのは、個人データを守る手を打っていたか、そして社員を監督していたかです。個人データは、名簿や顧客台帳のように、検索できる形でまとめた個人情報のことです。個人情報保護法は、この2つを会社の義務にしています。監督する相手には、パートや派遣社員、役員も入ります。
条文の原文(読まなくても大丈夫です)
- 個人情報の保護に関する法律 第24条(従業者の監督)
- 個人情報取扱事業者は、その従業者に個人データを取り扱わせるに当たっては、当該個人データの安全管理が図られるよう、当該従業者に対する必要かつ適切な監督を行わなければならない。
この義務を守っていないと、個人情報保護委員会から勧告を受けることがあります。個人情報を扱う会社を見ている国の役所です。勧告に従わず、本人への重大な被害が迫っていれば、命令に進みます。報告が要る漏えいを国に報告し、本人に知らせるのも会社です(報告義務の記事)。
Q6「研修でちゃんと教えた」と言えば足りますか?
研修で教えただけで足りるとは、言い切れません。個人情報保護委員会は、法律の読み方を説明したガイドラインを出しています。そこで「監督していない」例に挙がっているのは、社員が社内ルールどおりに仕事をしているか確かめなかった結果、漏れた場合です。ノートパソコンやUSBメモリが、ルールに反して何度も持ち出されていたのに放置した場合も挙がっています。
研修そのものは、ガイドラインでも求められています。ただ、研修の出席簿で分かるのは、誰がいつ受けたかまでです(人的安全管理措置の記事)。ルールを守っているかを確かめたかどうかは、別に残しておく必要があります。
Q7会社が払った分は、社員に請求すればいいですよね?
請求はできますが、全額を取れるとは限りません。会社が払った賠償を、あとで社員に請求することを求償といいます。
最高裁は、請求できるのは損害を公平に分けて相当といえる範囲までとしました。その範囲を考える事情には、仕事の中身や働く条件のほか、事故を防ぐために会社がどれだけ気を配ったかが入ります。タンクローリーの追突事故で、会社が保険を一部しか掛けていなかった事件では、社員に請求できるのは損害額の4分の1までとされました。
Q8じゃあ明日から何をすればいい?
ルールを教えるだけでなく、社員が守っているかを確かめて、その記録を残すことです。まず就業規則に、秘密を守る決まりと、懲戒の種類・程度を書いておきます。研修は、扱う個人データが多く重いほど、内容と回数を厚くするのが望ましいとされています。
そのうえで、社員がルールどおりに扱っているかを確かめ、持ち出しなどを見つけたら放置しないようにします。確かめた日と結果を残しておけば、会社が監督していたことを示す材料になりえます。
確かめ方の一つは、仕事に似た場面を社員に解いてもらうことです。スキャンの束に運転免許証のコピーが混じっていたら、社員は気づいて止まるか。
第1問を、あなた一人で3分。
- 名前もメールアドレスも要りません
- 社員には何も届きません。営業の電話もしません
- 料金は人数だけで決まります(50名なら年25万円・100名なら年40万円、税抜)
個人情報保護委員会「個人情報の保護に関する法律についてのガイドライン(通則編)」3-4-3・10-4 https://www.ppc.go.jp/personalinfo/legal/guidelines_tsusoku/
民法 第709条・第715条 https://laws.e-gov.go.jp/law/129AC0000000089
労働基準法 第89条 https://laws.e-gov.go.jp/law/322AC0000000049/労働契約法 第15条 https://laws.e-gov.go.jp/law/419AC0000000128
最高裁判所第一小法廷 昭和51年7月8日判決(昭和49(オ)1073) https://www.courts.go.jp/assets/hanrei/hanrei-pdf-54209.pdf